• ~旅と日々の出会い~
  • 出会い別れ、そして「出会い」

国宝の松江城やお堀の周りを見学し、空港連絡バスで「縁結び空港」に向かう。窓から見る松江しんじ湖温泉に、玉造温泉に、熱い寂しさを感じた。

搭乗手続きの順番を待つカワセミを呼ぶ声がした。

「まってください」

汗だくのオオが、空を両手でかくように走って来る。

「渡したいものがあります」

後ろに並ぶ人に断って列を離れた。

昨日渡そうとしてもって来たが忘れていたと、木製のぐい飲みを渡された。

「まだ、下手です。でも精魂込めて造りました」

東京出発便の最終登場手続きのアナウンスがあった。

「また島根に来てくれますか」

一瞬の間ができたが、カワセミは頷いた。

「ありがとうございます。待っています。必ず来てください」

カワセミはもう一度頷いた。「いつか・・・」

飛行機は宍道湖に向かって走り出し、やがて機体が浮いた。

いつかきます。それはいつなのか今はまったく分からない。もしかすると十年も二十年の先のことかもしれない。

昨夜、オオの話を聞きながら思いがかたまった。オオが夢を語れば語るほど、オオが島根の良さを説明してくれればくれるほど、そして十年も二十年もかけて夢を実現したいと決意を知れば知るほど。決心は固まった。オオや女将さんが夢の実現のためにみんなが協力してくれると感謝すればするほど、気持が追い立てられた。

初めは不安でしたが仲間がいたからとオオは繰返し、そして分かり合え、共に夢を追う人がいたらとどんなに楽しいかと控えめに告げた。

カワセミは朝風呂から上がると実家に電話をした。昨夜の決心は変わらないと。

年内に新潟に帰り、家の家業の造り酒屋を手伝うことにした。理工系を諦めて農学部に進んだ弟。いつかはお酒の販路を拡大し、生活者のニーズを分析すると社会学部への進学を認めた両親。卒業とともに帰る約束だったが、経験を踏みたいと東京の会社に勤めたカワセミだった。

やっと自分の夢と目的に気が付いた。

全国の美味しいお酒との選別に負け、販売網とプロモーション力の弱体から売り上げは低迷する。お酒のためにと米作りの農家にも迷惑をかけている。腰痛に悩まされ引退したという杜氏になんとか匠の技を伝授してくれと引き留める弟。黙々と働き続ける両親。

そこに夢があり、生きがいとなる関係がある。それに気づかせてくれたのが島根の人々であり、島根のお酒だ。そしてなによりもIターンで島根に住み、夢を作り、育み、実現に向けて頑張っているオオとの出会いだった。島根は魅力に満ちところだ。オオと一緒に夢を実現する人生も素敵なことだ。でも・・・。

シートベルトのランプが消えた。

「オオさん、ありがとう」

縁結び空港に駆け付けたオオの行動で気持を十分理解した。時間があれば心変わりをし、島根への片道乗車券を買うかもしれない。しかし、大きな夢と目的に気が付いたのだ。それが何よりも大切なことに思える。それを教えてくれたのが、島根の旅であり、オオとの出会いだった。この旅行に感謝した。あの温背の温かみが忘れていた感性をほぐしてくれたのだ。

オオは玉造温泉に向かった。心は舞い上がっていた。

                            終わり

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