• ~旅と日々の出会い~

4.旅の宿

夕食は豪華で品数も多く食べつくせなかった。それにお土産屋の変な誘いの興奮で、ビールと日本酒を飲んだからだろう。飲むと食べられなくなり、帰りにラーメンを啜るオジサン飲みの胃袋になったのかも。

仲居さんにすすめられお風呂に入った。夕食の時間で、廊下には賑やかな声がしたが、お風呂は静かだった。時折、雨音のような雫の落ちの音が引き渡る。平泳ぎで泳いだ。乳房が柔らかな湯にほぐされる。開放された双尻が浮かび、お湯の上で湯気にそっと撫でられている。ターンして入り口を見た。タオルで下半身を隠すお婆さんが四人、笑みを忍ばせて立っていた。

「ええですよ。わたすらに気にせんと泳ぎんしゃい。若い娘の特権ですが」

「ごめんなさい」

胸とお股をタオルで隠し露天風呂へと向かった。

「やや子がいっぺえ生める尻ぺちだわ」

老婆たちの笑いに、どうせ隠せないお尻だとほんのすこし腰を振った。妙な自信めいた喜びにも包まれた。露天風呂につかると大きな声で歌を歌いたくなった。山陰出身のバンドの歌をハミングした。心のもやもやが消えていく。いつのころからか歌を歌わない。男の人とのデートも誰にも話さない。部門の飲み会で「結婚」という二文字がでるとトイレに行く。

露天風呂から戻って湯舟につかるお婆さんに声を掛けた。

「私、子供、沢山産めますか」

お婆さんは笑い、「別嬪さんだわ」「ええ、オナゴさんだよ」と褒め、「その尻ぺちなら沢山、産めわ」と手を叩き、「島根に嫁にくうかね」とまた笑った。

お湯につかりすぎたのか、それともお腹がすいたのだろうか、先ほどから『伊豆の踊子』のページが止まったまままだ。まだ八時過ぎ。眠るのには早すぎる。テーブルの横に置いた勾玉が目についた。お風呂でお婆さんが、勾玉を握って寝れば、やや子に恵まれると教えてくれた。たしかに胎盤に眠る赤ちゃんのようだ。隣りのお婆さんが「やーことやってからだぞ」と笑っていた。

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